片手で人形を操り、まるで生きているかのように人间の感情の世界を表现できるというのが、人形剧の醍醐味です。台湾の人形剧は「布袋戏」と呼ばれ、そのルーツは17世纪の中国福建省泉州にあります。それが福建省南部からの移民によって台湾に伝わり発展を遂げ、台湾独自の文化を形成するようになりました。
布袋戏のスタイルと舞台
17世纪半ば布袋戏は中国の福建省でとても人気があり、个人で木箱を担いで巡业するスタイルも生まれました。木箱は组み立てると、简易舞台になるようになっていて、これを使って人形剧をやっていたのです。18世纪に入ると、布袋戏のプロの剧団も登场し、「野台戏」と呼ばれる屋外公演も行われるようになりました。この野台戏というのは、もともと依頼を受けた剧団の巡业公演を指していたのですが、それが次第に神様に奉纳するためのものに変化していきました。
初期のころの布袋戏の舞台は、「四角棚」と呼ばれる四角形のものでしたが、のちに「六角棚」と呼ばれる六角形のものに変化していきました。こちらは远くから见ると、庙の本殿(楼阁)に似ていることから「彩楼」とも呼ばれます。クスノキで丁宁に作られた舞台は、「顶蓬」と呼ばれる上部と布で覆われた「下蓬」と呼ばれる下部の二层构造になっていて、表面に金箔が施され、4本の「龙柱」と呼ばれる柱に支えられています。舞台には、人形遣いの动きが见えないように2枚の「加官屏」と呼ばれる透かし雕りの板が设けられ、舞台が3つの空间に仕切られています。その仕切られた3つの空间の上部には、「小门帘」と呼ばれるきれいな布が取り付けられています。こうした「彩楼」タイプの舞台は、雕刻が施された芸术品である上、高価で运搬も容易ではないため、1930年代後半になると、絵を书いた板を使った「彩绘」と呼ばれる舞台が登场することになりますが、その机能は伝统的な舞台に引けを取りません。
初期のころの布袋戏は、即兴剧が主流でしたが、18世纪になると、现在のようなスタイルが采られるようになり、お裁きや才子佳人を题材にした『乌袍记』『喜雀告状』といった物语性の高いものが演じられるようになりました。现在演じられている伝统的な布袋戏では、『三国志演义』『西游记』『封神演义』など小説が原作のものが人気を集めています。1980年代に入ると、台湾の布袋戏には、武术、お笑い、ファンタジーなどの娯楽性も加わってきました。
布袋戏とともに生きる
一本の竹串で人形の手を操り、髪をといたり、ひげを触ったりするしぐさは、布袋戏の巨匠、陈锡煌が考案したものです。国宝级の人形遣い、李天禄の长男で、小さいころから祖父と父の布袋戏を见て育ち、自身も人形遣いになりました。陈锡煌は人形遣いとしてだけでなく、人形の衣装や甲胄制作の腕も高く、その巧みなワザときめ细かさは、业界でも有名です。また、人形の细かな动きにこだわり、性别、地位、个性の异なるさまざまな役柄に合わせて、人形の歩き方や座る动作を完璧に変えられることから、布袋戏界で不动の地位を得ています。
「昔の台湾は农业社会だったから娯楽も少なかったんだよ。だから畑仕事が终わったら、みんなで庙の参道や広场に出かけて布袋戏を见たもんだ。毎日いくつもの演目が上演された布袋戏の最盛期だよ」と台湾の布袋戏の歴史を振り返る陈锡煌。その後、映画がはやり始め、さらにテレビが登场し、その影响をもろに受けた伝统芸能の布袋戏は、上演の机会を失い、谁も布袋戏を见に行かなくなりました。このころから、布袋戏は没落の一途をたどるようになります。その後、いくつかの剧団が、伝统的な布袋戏をテレビでも放送できるようにアレンジして、人形のサイズを大きくし、さらに衣装もあでやかにしました。また、物语も伝统的な忠义や正义を重んじた内容から逸脱し、照明や音响などの特殊効果を加え、编集を入れることによって、人形により难しい动きをさせるようにしました。これが视聴者に新鲜感を与えたのです。「こういう『金光戏』が、テレビで人気を集めたんだけど、伝统的な布袋戏とは随分と违ったものに仕上がっているんだよな。」
「伝统的な布袋戏っていうのは『口白』、つまり语りとセリフが重要なんだ。人形が操れるだけじゃ、ただの半人前だ」と陈锡煌が言うように、语りとセリフをいかにうまくこなすかが、布袋戏の人形遣いの腕の见せ所です。しかも感情をこめ、抑扬を付け、时には威厳を持たせてというのは生やさしいことではありません。
布袋戏の役柄は、男性の役柄の「生」、女性の役柄の「旦」、个性の强い役柄で隈取りをしている「净」、中高年役の「末」、道化役の「丑」、狮子や蛇などの「兽」に大きく分けられます。また、主な役柄にはそれぞれ登场の际に「四念白」と呼ばれる古诗から成る名乗りがあります。1990年代以後、テレビの布袋戏ではこの名乗りのほか、その部分がオリジナルの演奏や主题歌に発展し、とても印象深くなりました。
人形に敬意を払っている陈锡煌は、决して「人形を操る」とは言わず、「人形を操らせていただく」と言っています。どの人形にも魂があるので、操る人も诚意を持っていなければ人形を操らせていただくことはできないというのです。台湾の布袋戏の行く末を常に案じている陈锡煌は、もっと多くの人に布袋戏を知ってもらい、この台湾の重要な文化を後世に伝えたいと愿っています。
台北には台北偶戏馆、林柳新纪念偶戏博物馆、大稻埕戏苑など、伝统的な布袋戏を监赏したり、学んだりできるところがたくさんあります。また、布袋戏の人形が欲しいなら、台北偶戏馆、林柳新纪念偶戏博物馆のほか、河洛坊などでも入手できます。それから陈锡煌は、台北偶戏馆で布袋戏の讲座を开讲しているので、布袋戏の魅力にさらに深く触れることができますよ。
掌と指のワザが光る布袋戏